2009年5月の営業報告

ゴールデンウィーク前くらいまではバカのように忙しかったのですが、ここ1ヶ月くらいは比較的のんびりとした日々。「こんな時間があるときでもなきゃ、やんねえしなあ」と思って、前々から懸案だった田中ロミオ人類は衰退しました』第3巻をめぐる文章をまとめようと思ってたのですが、なんかこう今いちパンチが足りなくて、うろうろと材料を探してると、ビル・ウィリンガムが手がけているコミック『Fables』(Vertigo/DC Comics)がえらく面白くて、ああ、そうか。「妖精たちの国」ってのはこういうことだったのか、とひとり合点してたりするんですが、肝心の文章は全然まとまる気配すらない。


■んがー、それじゃダメじゃん。と、もうひとつ、途中まで書き進めて止まっている、宮崎駿監督『崖の上のポニョ』についての文章に再度着手したところで、『劇場版 交響詩篇エウレカセブン』が公開になり、この2作品の共通点をつらつらと考えていたら(両作とも童話にインスパイアされていること、海をめぐる物語であること、物語の幕を閉じるのが「老婆」であること……)、ふと、これって江藤淳が『成熟と喪失』で提起した問題に通じるところがあるんじゃ……? と思い、前に読んだのは大学生のときだから、いやはや10ン年ぶりとかに読み直して、小島信夫抱擁家族』の読解のあまりの的確さに舌を巻きつつ、唐突に言及される「昭和天皇マッカーサー元帥が並んで映っている写真」とそこから「父の不在」へと論を運んでいく、江藤の(あまりといえばあまりな)論旨展開に唖然とするわけです。なんというか、今さらこれはないよな。


■とはいえ、江藤の“成熟”をめぐる思考には、どこか筋の通った社会批評の肌触りを感じないわけでもなくて、というかむしろ、今の日本のフィクションがいろんな形で取り上げている“未成熟”の問題は、ほとんど江藤の論の射程から逃れていないように思えたりする。これはまた後でじっくり考えてみるべきポイントなのだけれども、今から40年近く前のこの論文――というか随想?――で、江藤は「第三の新人安岡章太郎小島信夫遠藤周作吉行淳之介庄野潤三)」の作品群に、「父になることを拒絶し、母になろうとする男たち」と「母になることを拒否し、女となることをもまた拒否する女たち」を見出す。そしてそれを、日本の近代化――明治期のそれと戦後のそれ――に、二重にだぶらせつつ論を進めていく。


■もちろん江藤の主眼は、単純な社会反映論では留まることがなくて、むしろそのように“引き裂かれてある状況”に、作者がどこまで敏感に反応しているのか――作品を書き進めていく書き手の意識というか反射神経のようなものを、作品からえぐり出そうとしているわけで、そこにこそ江藤の明晰さはある。だがそれと同時に、その明晰さは「成熟する/しない」というレベルの問題の、さらにその先を予感させて、たぶん、私たちはこれから先、きっと「成熟しない」し、「喪失」の記憶すらもうあやふやになっていく(事実、私たちは喪失したことさえ喪失してしまっている。江藤がW村上を評価したのは、たぶんその「喪失の喪失」ゆえだと思う)。そして、そんな“引き裂かれてある状況”において、果たして「成熟を物語ること」は可能なのか? というところが、今の私たちが直面している事態なのだと思うのです。


■……てなところから『ポニョ』と『劇レカ』の再検討を始めてみたはいいものの、とんでもなく時間がかかる作業になるのは必至なので、ビビッて手が止まっているわけです。ああ、批評なんて暇な人にしかできないわけだよな。とはいえ、せっかく手をつけたので、なんとか『ポニョ』のDVD発売までには完成させたいな……。


■ってなところで、貧乏暇なしな先月の営業報告。レギュラーの仕事がメインだったみたいです。


●アニメ:Newtypeチャンネル

http://anime.webnt.jp/

映像配信ポータルサイトですが、5月に更新された特集記事『劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇』と『交響詩篇エウレカセブン』(劇場版のみ)の執筆を担当しました。『グレン』は、公開日&公開翌日に開催された舞台挨拶の密着リポート……ということで、朝イチで池袋に行って、お客さんと一緒に『螺巌篇』を見て、それから吉祥寺に移動した後、新宿で取材。さらに翌日は、横浜まで出かけて舞台挨拶を2回見る、という超強行スケジュール。お客さんの盛り上がりが間近で見られるのは、やっぱり楽しいな。


●『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』公式サイト

http://www.sonymusic.co.jp/Animation/hagaren/

この4月から放映中のアニメ『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』。この公式サイトでは「東京国際アニメフェア2009」のリポートなど、いくつかのテキストをお手伝いしています(無記名)。そのなかの「CENTRAL TIMES」は、劇中で起こった事件を新聞記事風にプレイバックする、というもの(不定期更新)。こういう偽記事を書くのは楽しいですねえ。


●『ダ・ヴィンチ』2009年6月号(メディアファクトリー

http://web-davinci.jp/contents/guide/index.php

ダ・ヴィンチ 2009年 06月号 [雑誌]

松山ケンイチが表紙で、第一特集は小川洋子(第二特集は『鋼の錬金術師』……)。担当したのは、レギュラーの「ミュージック ダ・ヴィンチ」。レコメンドで取り上げたのは、おおはた雄一×クリス智子の『lost&found』。それに加えて、巻頭「あの人と本の話」で、菊地成孔にインタビューしました。ずーっと「取材したいなあ」と思っていた菊地さんと初めてお会いして、かなり緊張。


●『テイルズ オブ マガジン』Vol.9(角川書店

http://www.kadokawa.co.jp/mag/bknum.php?tp=comptiq

Tales of Magazine (テイルズ・オブ・マガジン) 2009年 06月号 [雑誌]

先月、最もヘヴィだった仕事がこれ。アニメ版『テイルズ オブ ジ アビス』の完結を記念して、80ページの小冊子を担当。ゴールデンウィーク進行で、通常より10日間ほど進行が早く、しかも単純に物量が多かったので四苦八苦。いろいろ不満はありますが、とりあえず現状で押さえるべきところは押さえられたかな……。基本的には事務所の野口くんがライティングとページ構成をやってくれて、僕は全体のディレクションと原稿チェック、あとはいくつかのページ(美術設定パートやインタビュー)のライティングを担当。


●『ニュータイプ』2009年6月号(角川書店

http://anime.webnt.jp/nt-backnumber/detail.php?mag=1&latest=1

Newtype (ニュータイプ) 2009年 06月号 [雑誌]

表紙は『鋼の錬金術師』(ここでもか……)。担当したのは、最後の方のページに載っている「SHIMBO THE WORLD」という、新房監督の新作2本(『夏のあらし』と『化物語』)を扱った小特集。「ニュータイプ」にしてはたっぷり目に文字を取って、監督へのインタビューをやっています。いつもながらの居酒屋での取材だったのですが、比較的、今の新房監督作品のクリティカルな部分を押さえた記事になったんじゃないかな、と思っています。


●『メガミマガジン』2009年7月号(学研)

http://www.e-animedia.net/b_megami.html

Megami MAGAZINE (メガミマガジン) 2009年 07月号 [雑誌]

毎度のことですが、レギュラー「キャラクターキャッチアップ」を担当。ページは4ページと少なかったんですが、ちょっとページの進行方法を変えたこともあって、ややドタバタ。全体の構成と原稿チェックを担当。


●『ミチコとハッチン』第5巻(メディアファクトリー

http://www.michikotohatchin.com/

ミチコとハッチン Vol.5 [DVD] ミチコとハッチン Vol.5 [Blu-ray]

まだまだ続くDVDシリーズ。第5巻は、ちっちゃな黒人の女の子・リタとハッチンの友情を描く第9話「恋したショコラッチ・ガール」と、玉蜀黍畑での逃亡劇が見ものな第10話「ハイエナどものカーニバル」を収録。ジャケットおよび封入パンフレットのライティングを担当。※なぜかAmazonのジャケット写真がイメージビジュアルですが、本チャンはハッチンとリタがサーカスで空中浮遊を披露してるビジュアル。かわいいです。


■そんでもって、好評放映中の『バトルスピリッツ 少年突破バシン』(http://www.nagoyatv.com/battlespirits/index.sms)ですが、いよいよ第4クールに突入。サウスピ団の幹部となり、バシンたちと袂を分けたJ、そんな彼に対してバシンは……。中学生編に突入してからは、ちょっぴりシリアスな展開が続く……のかな? 僕が担当した第40話「突破・ファミリーとチームの間で」は、6月14日放映です。これで、僕が担当した脚本回はすべて終了。放映を前に、ちょっとドキドキしています。またDVDも絶賛リリース中。こちらもよろしくお願いしますです。

バトルスピリッツ 少年突破バシン1 [DVD] バトルスピリッツ 少年突破バシン 2 [DVD] バトルスピリッツ 少年突破バシン 3 [DVD]