マリア様がみてない。

■しばらく更新が止まってしまいましたが、その間にロスアンゼルスに行ってました。もちろん仕事(『ハイパーPS』誌と「PS.com」掲載のE3のリポート)で。話題のPSPなんかも現地で触ってきたんですが、そんなことよりも、向こうに滞在中からずっと日本語に不自由な状態が続いていて、なんでかしら〜?とか思いながら無理矢理日々の仕事(原稿書き)をこなしつつ、ま、一種のスランプに陥っていたわけで、そこに『STUDIO VOICE』誌のアニメ特集の仕事が入って、毎日6時間以上もアニメを見る生活になって、おかげで日本語は不自由になる一方。おかげで、ここの更新もままならん状態だったわけだったりします。


■今回の訪米で何がいちばんショックだったかといえば、それはもう滞在先があのハリウッド! のど真ん中にあるホテルだったことで、歩いて5分でマンズ・チャイニーズ・シアターですよ。レッド・カーペットの敷かれるハリウッド&ハイランドなんて、毎日通ってレストランでメシ食ってましたよ(1階のパティオにあるイタリアンレストランがすごく美味しい)。ブラブラ歩きながら、ああ、この地面の下にスターへの夢を果たせなかった大勢の若者の魂が蠢いているのだ、などと思ってふと目を上げるとこんもりとした山の頂上近くにハリウッドサイン。スターのお宅訪問ツアーに群がる観光客を尻目に、そんな暗い想像に全身をどっぷり浸り、ハリウッドの夜は日本なんかとは較べものにならないほどに黒かったり。


■で、向こうのラジオって、めちゃくちゃヒップホップ率が高い。日本のMTVなんかもどんどんそうなりつつありますが、いわゆるロックとかポップスってのは、どんどん隅に追いやられてる。それは街を歩いてても感じることで、低音の効いてない音楽というのは、一部の好事家の特殊な趣味になりつつあるのかもなと思わされることが多々あって、そりゃあギターポップとかやってる連中は肩身が狭くなるわなあと。20世紀のポップミュージックは後半の20年で一気に低音化が進んだというのが一般的な見解だろうと思うのだけれど、シュガーヒルギャングのデビューから考えてもすでに四半世紀の歴史を持っているヒップホップは、今ではセンチメンタルなギャングスタラップからアウトキャストのようなポップ展開、アブストラクトなアンダーグラウンドまで、恐ろしくレンジの広い音を提供するようになってるわけで、その事実をロスで改めて思い知った、と。


■そんな感じで、ホテルに籠もって仕事をしてるときはずっとラジオをつけっぱなしにしてたんですが、そんななかで気になったのがチカーノラップというヤツで、ちょっと前ならローライダー系というか、いわゆる甘ったるくてペナペナな音質のヒップホップが妙にお気に入りに。なんかね、全体にユルいんですよ、雰囲気が。よくは知らないんだけど。最近じゃベイビー・バッシュってアーティストが話題を呼んでるらしいんだけど、そんなこととはつゆも知らずに、ああ、このユルさは脳味噌を腐らせそうだとか思いながら、コンピ盤を買って繰り返し聞いてたりして、そこでふと気づくわけです。原稿を書けないのは、このユルさのせいなんじゃねえか? と。


■西海岸というとどうしても地の果てのイメージが強くて、確かに夕暮れ時(といって夜8時くらい)に、ボコボコのキャデラックと高級なSUVがビュンビュン走るサンセット・ブルヴァードを横目にちっとも美味しくない中華料理を食いつつ、ロスの乾燥した風がさらさらと肌の上をなでていくのを感じていると、ああ、ここから先は何にもなくていいんだなと思って、そこに流れる甘茶なチカーノラップはどうしようもなく安っぽくて繊細さのかけらもないほど大雑把で、それゆえにグッときちゃったりもするんだなあと思ったわけです。