思いついたようにときどき動く時計

佐藤大さんと飲みの席で(といっても、彼は酒を飲まないんだが)盛り上がった「ダイナマイト関西」のDVDを観て以来、ずーっと筋肉少女帯のメジャーデビューアルバム『仏陀L』を探していて――というのも、バッファロー吾郎・木村明浩の出囃子が「オレンヂ・エビス」だったからで、うぉーっ、久々に聞きてえ! と思いながらしかし、『仏陀L』はずいぶん前に廃盤になったきりで、中古盤屋をちょくちょく覗くようにしていたのだが、ようやく中野のレコミンツで発見。当然のごとくプレミアがついていたんだが(といっても3千円ちょっとだけど)、思い切って購入する。


■で、本当に15年ぶりくらいに聞いてみて、音の微妙なバランスに驚く。まず第一に低音が弱い。家のコンポで聞いているときにも思ったんだが、ヘッドフォンだとより一層低音の抜けの悪さに気づく。で第二に、中音部のアタックが異常に強い。1曲目の「モーレツア太郎」の冒頭、「モーレツ!」のコーラス部分なんかもう、まるでハンマーでガツンと殴られたくらいに強い。高音のシャカシャカはそれほど気にならなかったんだが、微妙な分離の悪さが時代を感じさせるのである。うーん、そう、15年くらい前ってこういうミックスが主流だったんだよな。ちょうど中音部を際立たせたミックスから、低音に比重が変わっていく境目くらいの音づくり。リズムよりもメロディを中心にしたミックスなわけなんだが、今聞くと改めて「古い」と感じる。もちろん「古い」が「悪い」じゃないことは言うまでもないことなんだけども。


■と同時に、僕の変拍子好き――というか曲の途中でリズムが変わるのが好きなのは、実はこの頃からの性癖だったんだなあ、と思う。この『仏陀L』は当時友達から借りたヤツをテープにコピーして、イヤになるほど繰り返し聞いたアルバムだったんだが、とにかくリズムがグゥニグゥニ変わるのが、楽しい。三柴江戸蔵のピアノも炸裂しまくってて、ヘビメタっつーかプログレっつーか、実に面白い。


■自分が変拍子好きだっていうのを自覚したのはずいぶん最近のことで――ハウスミュージックの、機械にしかできないスクエアな4つ打ちもまた“変な拍子”だってことに気づいたのがきっかけ――、例えば高校のときに流行ってたサザンオールスターズの“ホワイトアルバム”こと『KAMAKURA』で一番好きな曲が「古戦場で濡れん坊は昭和のHero」だった。という事実が、それを物語っているのかもしれない(この曲は7拍子)。つまり、人間の生理が持ってる自然な歪みとかゆらぎ。のようなものから、離れれば離れるほど、僕にとっては気持ちのいい音だっていう。


■僕はエミネムのデビューに全然ピンと来なかったくちで、最初にちゃんと聞いたのはたぶんタワレコの店内で、そのとき思ったのは“これって、要はデイヴィッド・ボウイでしょ”ってことだった。つまり、誰かのキャラクターを被ったうえで歌う曲っていうか。歌っているミュージシャンと歌詞の「I」がぴったりとは一致しない音楽、というジャンル。で、筋肉少女帯の大槻ケンジもまた、そういうミュージシャンで、プロレスとか江戸川乱歩とかオカルト趣味とかマンガとか、そういうアイテムを体のあちこちに貼りつけて、2重にも3重にもキャラクタライズされた“歌手”が歌う。確かに、高校生くらいだった僕は、そういう虚構性の高さに惹かれていたんだけども、今はもうそれほどでもない。


■そういう意味で、僕にとってエミネム筋少もボウイも、氣志團モリッシーもXも、全部同じジャンルにくくられてるんだなあ、と改めて確認した次第。


■にもかかわらず、胸を撃ち抜かれるフレーズというのは確かにあって、「サンフランシスコ」なんて、もうまるっきり歌謡曲みたいに、僕の胸をドキドキさせる。「まだぼくが君を/愛してるのかもしれないなんて/思いちがいをして」。うわー、もうなんていっていいかわかんないけど、電車のなかでこの部分を聞きながら、泣きそうになった。