文句は言わない

プラネテス 9 [DVD]


■もう先週の話になるんですが、ロフトプラスワンでやった「CONTINUE」のイベントに出演しました。てゆうか、あんなんでよかったのかよくわからんのですが、最後はもう全部、高橋名人に持っていかれた感がバリバリと。そっかー、みんな、そんなに80年代が好きなのか。まあ、テレビゲームがホビーとしていちばん勢いがあった時代があの頃だったのは間違いないんですけどね。そう考えると、今のテレビゲームについてアレコレお喋りするのが、なんかちょっと寂しくなるような気もしたりして。


■あと、16日に発売になった『メタルギア ソリッド 3』の初回特典ブックレットで小松左京先生のインタビューを仕事でやって(ちょっと前にここに書いた「某SF界の大物へのインタビュー」というのが、これです)。スタニスワフ・レムの原稿とか載ってるメチャクチャな特典なんですが、多くの人はたぶん読めないんだろうな。なにせ1万何千円とかするわけだし。で、小松先生への取材を通して、僕はようやく、冷戦が第2次世界大戦と直結していたということが、理解できた気がしています。てゆうか、72年生まれの僕は、気がつくと冷戦構造に巻き込まれていたわけで、冷戦の持っていたインパクトというものがちっとも身に染みてないわけです。ですが、当時の冷戦の担い手たちはすべて、戦争の記憶→終戦による世界の一体化→米ソの戦略的分裂→冷戦という流れを、自分のものとして実感していたんだな、と。そこは、体験した人でしかわからない抑圧と感覚があるんだろうな、とは思ったわけです。


■アンダーセルのイベントで藤津さんが『攻殻機動隊 S.A.C.』と並んで激烈に推薦してた『プラネテス』を――なんだか全部一気に観てしまうのはもったいないような気もして、暇なときを見つけてはコンペイトウをかじるみたいに少しずつ消化していたんですが、ようやく観終わる。で、これもまた資本主義をどうするかって問題を抱えた作品のひとつなんだあ、とか思ったわけです。「これもまた」っていうのは、最近ホント、この手の作品を観る機会が多くて、でも一方で、僕たちの生きている世界を動かしているシステムというか、構造みたいなものをマジに捉えてみるってのは、作品の作り手とすればたぶんごく自然な発想なんだろうなとも思うわけですが。


■原作の『プラネテス』が、若さと個とそこから伸びていく愛の問題をメインに据えていた作品だとすれば、アニメ版はそれだけでは捉えきれない社会とかそこで生きている人のユニティ(連帯)とかそこを繋ぐ愛の問題を描いていて。で、その結果として、貧富の差(いわゆる南北問題ってヤツですね)とか貧困から脱出を願う人たちが最後の“戦争”の手段としてテロリズムを引き起こすこと、とか、去年から今年にかけてこの世界で起こったアレやコレを見事に引き写した作品になっている。そのあたりの葛藤が作品から垣間見えてしまうのが面白いなあ、と(ここらへんはまさに『攻殻S.A.C.』のセカンドシーズンとも問題意識が重なるところなんだけども)。


■資本主義の難しいところは、それが文明の発展とともに、ごく自然に、当たり前のものとして選択された結果のシステムだというところなわけです。それはどこかの誰かが勝手に決めたものじゃない。僕たちとともにある、突破できない(というか到底できそうに思えない)見えない壁としてのシステム。例えばマルクスは、資本主義が必然的に抱えてしまうシステムとしての問題点を、貨幣そのものが果たす役割において読み解こうとしただけども、その批判は同時に、壮絶な実験場としての共産主義を生んだ、と。にもかかわらず、批判はいまだに有効だったりする。じゃあ、どうすればいいんだろう? っていう、ここらへんが資本主義に巻き込まれている僕たちの大きな問題だったりする。


■つまり、まだ答えはない。でも、フィクションならそれを浪花節で描くことができる。そこがフィクションの可能性と限界なわけです。そうした葛藤を描いている作品というのは、やはり感動的で。


■てゆうかそんなことはどうでもよくて、エーデルが正社員になれたのは、本当によかった。よかったなあ、と思う。